生きることは、分かち合うこと。山のハム工房ゴーバルが、食を通じて問い続ける、正直な生き方

豚熱(豚コレラ)が発生してから丸3年が経とうとする中、少しずつ、恵那市内でも養豚が再開され始めています。

養豚場と連携し、生産から販売まで一貫した取り組みをしているのが、恵那市串原で、ハムづくりをしている「山のハム工房ゴーバル」

非遺伝子組換飼料で育てた豚、鶏を使用し、化学調味料・保存料・発色剤などは一切使用せず作り上げるなど、原料からとことんこだわる姿勢が、多くの人の支持を集めています。

圧倒的なこだわりの背景には、どんな思いがあるのでしょうか?工房長の田中亮太さんに、ゴーバルの目指していることや、養豚、そしてハムづくりについて、たっぷりお話を聞いてきました。

  ゴーバルについて

ゴーバルの始まりは、1980年。当初は、2家族での自給自足の共同生活として「アジア生活農場ゴーバル」という名前で始まりました。当時のゴーバルは、自給自足の暮らしをしながら、夏に田舎の生活を体験する学校を開いて現金収入を得るというスタイルでした。

 そんな中で、もう1つ事業をしてみようと始まったのが、現在のゴーバルに繋がるハムづくり。その後、串原に元々あった養豚場と提携して、1985年から「串原食肉加工組合ゴーバル」として再スタート。当時は木の樽を使った「タルタルハム」という名前で、友人や口コミを通じて少しずつ広がっていきました。

ハム作りが軌道に乗ってきたゴーバルに、田中さんが出会ったのは、1999年のこと。

静岡が実家だという田中さんですが、進学や仕事で、宮城、名古屋、東京などを転々としていました。小さい頃から食に携わりたいと思いながらも、高校生の時に、発展途上国の現場を知り、まずは発展途上国に携わってから、その後食に携わろうと決意。土木を学ぶために大学に進学します。その後、土木の現場監督などの仕事を3年勤めた後に「やっぱり、食の仕事がしたい」と立ち返って、農家など様々な場所を見て回る中で出会ったのが、ゴーバルだったのです。

「土木をやっている時、忙しくて、寝る時間も少ないし残業も多いし何やってるんだろう?と悩んでいました。ゴーバルは、仕事も楽しいんですが、仕事よりも生活に重点を置いています。串原という村で根付いて仕事をすることも、仕事以外の生活も楽しかったので、最初はアルバイトから始めたんですが、そのまま就職して働くことを決めました。」

社会の動きとゴーバル

田中さんがゴーバルで働き始めてから少し経った頃。肉骨粉(こっぷん)と、遺伝子組み換えが社会問題になりました。

肉骨粉とは、肉の切れ端や骨を細かくしたもののこと。当時、この肉骨粉は豚の餌として当たり前に使われていましたが、いわば共食い状態になっており、これが様々な病気の原因なのでは?と言われ始めていました。

「肉骨粉は確かに安いんですが、ゴーバルではみんなで餌について勉強して、契約する養豚場には、肉骨粉を使わないようにしてもらうという動きを早くから始めていました。」

また、遺伝子組み換え飼料も、ゴーバルでポークには使っていません

「何が遺伝子組み換えが問題なのかと聞かれたら、遺伝子操作して、どういう影響があるかわからないというのもありますが、それだけではありません。

遺伝子組み換え作物がそもそもなぜあるかというと、雑草を駆除するために、除草剤に負けない作物を作りたいからという背景があります。なので、遺伝子組み換え作物を使うことは、農薬を使うことと結びついているんです。

もう1つは、遺伝子組み換えは、特許があるから、タネを取れません。毎年タネを買って栽培しなければならないので、お金がない人はその支払いに苦しみます。結局、お金のない人が苦しむ構図に加担してしまうことになってしまうと思うんです。」

"Living is sharing"

ゴーバルが、ここまで、こだわる理由。

それは、共同生活の場として始まった時から掲げるテーマ「Living is sharing」にあります。

"Living is sharing"というのは、日本語にすると"生きるとは、わかちあうこと。"という意味。

田中さんは「分かち合いながら生きていくとはどういうことか?を問い続けていると、自分たちが食べ物を作る過程で、困っている人がいないか?自信を持って身近な人に出せるものか?を気にすることになるんです。」と話します。

例えば、今ゴーバルが使っている黒砂糖は、フィリピンのネグロス島で作られた、フェアトレードの砂糖。

砂糖作りの現場では、どれだけ砂糖を作っても、砂糖の買取価格が安すぎるが故に、土地を借りている人たちが、土地代を払うのに精一杯になってしまっている現実があります。結果、砂糖を育てる現場の人たちは、とても安い賃金で働かされてしまっています。

そこでゴーバルでは、砂糖作りの現場の人たちにも適正な価格が支払われるようにと考えて、ずっとフェアトレードの黒砂糖を使用しています。

「見れていないのもあるだろうけど、どういう経緯でできているのか?を常に問いかけています。原料を作っている人は生活できるのか、悪いものが入っていないか、これを販売するとはどういうことなのかを気にして、気づいたところは改善したいと思っています。」

アニマルウェルフェアへの問題意識。豚舎を大幅改造へ。

生きるとは、分かち合うこと。そんな思いで、1つ1つの歩みを大切に進めてきたゴーバルですが、3年前の豚熱により、串原養豚で飼っていた1000頭の豚は、全て殺処分しなければならなくなりました。

「豚舎が空になり、しばらくは豚が飼えない状態になりました。じゃあどうしよう?と考えた時に、串原養豚代表の石原弦がアニマルウェルフェアをすごく勉強しました。」

アニマルウェルフェア(動物福祉・家畜福祉)とは、生き物としての家畜が、生まれてから死を迎えるまでの間のストレスをできる限り少なくして、健康的な暮らしができる飼育方法を目指そうという考え方です。日本ではまだあまり馴染みがありませんが、海外では広まってきています。

一般的な養豚場では、効率よく飼育するために、飼育豚は動けないほど窮屈な豚舎で飼われています。

ゴーバルでは元々、アニマルウェルフェアへ問題意識を持ち、少しずつ豚舎を改造していましたが、豚熱をきっかけに、大規模な改造へと踏み出しました。

 「母豚が動いて子豚を踏み潰してしまう事例もあって、ただ広くすれば良いというわけではないですし、もちろん広くするにはお金もかかります。子豚だけが入れるスペースを作るなどして、そういった事故が起きないように配慮しながら、自分たちが今できる最大限の豚舎を作りました。」

結果的に、元々は1000頭以上いた豚舎を、余裕を持たせた構造に変えて、豚舎に600頭ほどが入る形へと変更しました。


▲串原養豚Instagramより

「幸せに育っても結局食べるというところに行き着きます。でも、生きている間は、ストレスなく幸せな方が、育てていても嬉しいし、生きている方もいいんじゃないかと思っています。そして、それが、僕たちが自信を持って提供できるものだと思います」

また、アニマルウェルフェアは、動物の生き方という観点だけでなく、味にも影響を及ぼすのだとか。

「串原に豚がいない間に、全国の様々な豚を仕入れて食べて分かったのは、元気に動いている豚は美味しい、ということです。それまでは、豚肉は匂いがないのが美味しいと思っていたんですが、運動している豚は、美味しい豚の匂いがするんです。匂いは餌で決まるものと言われていますが、餌だけじゃないんだなと思うようになりました。」

 串原の人と共に生きる、ゴーバルのソーセージ

ところで、ゴーバルのソーセージには、とあるものが入っています。とあるものの正体、それは…トマト!ゴーバルのソーセージが濃厚で美味しいのは、一般的には冷やすために氷を入れる代わりに、凍ったトマトを使っているからなんです。

しかし、実は製造の観点では、トマトとソーセージの相性はよくありません。その理由は、ソーセージは、油と肉がくっついてプリプリ感を出すものですが、トマトは油を分解する働きがあるから。しかし、やり方を試行錯誤して、なんとか今の形になったのです。

そこまでしてトマトを入れた1番の理由は、串原はトマト作りが盛んだから。規格外でロスになってしまうトマトをなんとか活用できないかと考えて、トマトを入れたソーセージ作りを、田中さんが恵那に住み始める前からずっと続けているんです。

田中さんの「地産地消っていうのは、移動のロスも減らせて、地元だからこその特色も出て、すごい良いことだなと思っています。そしてそれだけじゃなく、トマトのおかげでゴーバルのソーセージが美味しくなっているわけですしね」という言葉通り、トマトが入ったソーセージは、串原の人たちと共に生きていくゴーバルの姿勢そのもののように感じます。

レストランへの挑戦!?ゴーバルと繋がり続ける田中さんのこれから。

ゴーバルに出会って20年余り、living is sharingという考え方のもと、ハム作りや暮らしで体現してきた田中さん。最後に、これからやりたいことを教えてもらいました。

「元々、飲食に興味があってゴーバルに来たので、串原でゴーバルのレストランをやりたいです。ただ個人のお店をやるのではなくて、ゴーバルと繋がりながら、ゴーバルのものを使って、美味しい食べ方を提案したいです。」 

その根っこにあるのは、やっぱりliving is sharing という考え方そのもの。これからどんな形でそれが体現されていくのかが楽しみです。

<編集後記>

無添加、オーガニック、SDGsー。色んな耳障りの良い言葉が流れる中で、商業的になるのではなく「living is sharing」という原点を問い続けるゴーバル、そして田中さんのまっすぐな姿勢に、ゴーバルが愛され続ける理由を見た気がしました。「なんとなく良さそう」でも「安ければいい」「私がよければいい」でもなく、私たちにとって本当に良いものとはなんなのか。なんて考えながら食べるゴーバルのハムは、やっぱりめちゃくちゃ美味しい。と思う夕方なのでした。

<山のハム工房ゴーバル>
住所:岐阜県恵那市串原3777
公式ホームページ:https://gobar.shop-pro.jp/
営業時間:月~金:9:30~17:00 /   土:9:30~12:00
tel (0573)52-2085
Eメール info@gobar.jp

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